木枯らしが容赦なく吹き抜ける、休日の午後。
私は、駅前の喧騒から少し離れた公園のベンチに座っていた。
灰色の雲が重く空を覆い、太陽の光はほとんど地表に届かない。
吐く息は白く、首元にマフラーを隙間なく巻いていても、冷たい風がコートの襟元から容赦なく入り込んでくる。
枯れ葉が、乾いた音を立ててアスファルトの上を転がっていく。

そんな寒空の下で、私は膝の上に広げたノートパソコンの画面を、もう何十分も睨みつけ続けていた。

(どうして、こんなにトゲトゲしい文章になってしまうんだろう)

私は、画面に打ち込んだ文字をじっと見つめながら、深いため息をついた。
私が運営しているウェブサイトの新しい企画として、幸せ度診断テストのページを作成しているところだ。
読者がいくつかの簡単な質問に答えると、その人の現在の心理状態に合わせた結果が表示される仕組みになっている。

いちばん特殊な判定であるSランクの結果については、先ほどようやく納得のいく温かい文章に修正することができた。
しかし、残りの一般的な判定であるAからCまでの結果が、どうしても上手く書けずに苦戦している。
私は、さきほど書き上げたばかりの診断結果Cの草稿に目を落とした。

『あなたの幸せ度はかなり低迷しています。不満ばかりに目を向けていては、状況は何も変わりません。もっと身の回りの小さな感謝を見つける努力をしましょう。』

自分で声に出して読んでみても、胸がチクリと痛むような冷たさがある。
ひどく上から目線で、読者の現状を頭ごなしに否定し、無理やりポジティブな行動を強要しているようにしか感じられない。

幸せ度が低くて深く落ち込んでいる人がこの文章を読んだら、きっと余計に惨めな気持ちになり、サイトを閉じてしまうだろう。
私は慌ててバックスペースキーを叩き、その文章をすべて削除した。

(じゃあ、Bランクの文章はどうだろう)

私は、保存しておいた別の草稿を開いた。

『あなたの幸せ度は平均的です。良くも悪くもない状態なので、もう少し新しいことに挑戦して、日常に刺激を与えてみてはいかがでしょうか。』

これもだめだ。
平均的という言葉が、まるで今の状態がつまらないものであるかのように響いてしまう。
日々を平穏に、そして真面目に過ごしている人のささやかな幸せを、つまらないものだと切り捨てているような気がする。
私は、首を横に振りながら、これもすべて消去した。

(私には、人の心に優しく寄り添う文章なんて書けないのかもしれない)

画面は再び、真っ白に戻ってしまった。
かじかんだ指先だけでなく、心の一番深いところまで冷え切っていくのを感じる。

読後感を良くしたい。
読んでくれた人が、少しでもホッと息をつけるように。
その理想とは裏腹に、私の中から出てくる言葉は、どれも誰かを裁き、冷たく評価するようなものばかりだった。
自分の内面にある、底意地の悪さや傲慢さを鏡で見せつけられているようで、ひどく落ち込む。
私はパソコンを半分閉じ、両手で顔を覆った。

「あれ、おかしいな。どこから開けるんだろう、これ」

不意にのんびりとした声が聞こえた。
驚いて顔を上げると、見知らぬ男が立っていた。

手には、コンビニのレジ横で売られているような、ほかほかの肉まんの袋がぶら下がっている。

彼は、封を切ろうとし始めたが、透明なフィルムの開け口がどこにあるのか見つけられないようだった。
力任せに真ん中からフィルムを引き裂こうとして、袋ごと地面に落としそうになる。

「おっと。危ない、危ない」

そのあまりにも人間くさい姿に、私は思わず肩の力が抜けた。

「よかったら。私が開けましょうか」

私が声をかけると、その方は照れくさそうに笑いながら、私の隣のスペースに腰を下ろした。

その後の彼の行動に私は驚きを隠せなかった。

彼はようやく無事に取り出した肉まんにかぶりつくと思いきや、意外にも私に差し出したのだ。

湯気とともに、甘じょっぱいひき肉の香りがふわりと鼻をくすぐる。
私は何も言わず受け取り、ゆっくりと一口かじった。
温かさが冷え切った体にじんわりと染みわたっていくのを感じた。

「いやあ、あんたが随分と難しそうな顔をしていたからね。温かいものでも差し入れようと思ってさ」

「ありがとうございます。実は、文章がどうしてもうまく書けなくて、行き詰まっていたんです」

私は、先ほどまで一人で抱え込んで悩んでいたことを、彼に包み隠さず打ち明けた。
診断テストの判定結果を書いても、どうしても説教くさくなってしまうこと。
読者を上から否定しているような、冷たい文章しか浮かばないこと。
自分の感性の乏しさと優しさの欠如に、すっかり自信をなくしてしまったこと。

彼は、残りの肉まんを少しずつかじりながら、黙って私の話に耳を傾けていた。
時折、小さく頷きながら、私の言葉を受け止めてくれる。

「相手を元気にする言葉を選びたいのに、気づくと欠点を指摘するような内容になってしまうんです。どうすれば、相手を傷つけない優しい文章になりますかね」

私が答えを求めて切実に問いかけると、彼は肉まんの最後の一口を飲み込み、ゆっくりと灰色の空を見上げた。

「オラあ、難しいことは分かんねえけど、とにかく自分のことを考えてみることだな」

「私自身のことですか?」

「ああ、そうだ。あんたは、誰かにダメだと言われたとき、どんな気持ちになるかな」

それは、具体的な文章の書き方ではなかったが、貴重な問いかけだった。

「それは……落ち込みます。それに、頭ではわかっていても反発したくなると思います」

私が素直な気持ちを答えると、静かに視線を私に戻した。

「そうだろうな。じゃあ、そのときあんたが本当に言ってほしかった言葉は、どんな言葉だろうね」

彼はそれだけ言うと、ゆっくりと立ち上がって服の裾を軽く払った。

「さて、あっちの方を散歩してくるかな。この公園は、冬の木立ちがとても綺麗だからね」

そう言い残して、落ち葉を踏みしめながら、ゆっくりと歩き去っていった。

私は、手の中に半分残っていた肉まんをじっと見つめながら、彼が残した言葉を頭の中で何度もくり返した。

(私が本当に言ってほしかった言葉……)

過去の苦い記憶が蘇ってくる。
仕事で大きなミスをして激しく落ち込んでいたとき、私が欲しかったのは正論やアドバイスではなかった。
頑張っていたのは知っているよという、私の見えない努力を認めてくれる言葉だった。
今は無理せずに休んでいいよという、私の痛みに寄り添い、許してくれる言葉だった。

診断テストを開く読者も、きっと私と同じなのだ。
彼らは、自分の人生を誰かに厳しく評価され、採点されたくてテストを受けるわけではない。
ただ、今の自分を客観的に見つめ直し、そしてそのままで大丈夫だと優しく肯定してほしいのだ。

(足りないものを指摘するんじゃなくて、今あるものを認める言葉を探せばいいんだ)

視界を覆っていた霧が晴れ、急に目の前がクリアになった気がした。
私は、急いでパソコンを開き、新しいドキュメントを作成した。

私は、冷え切った指先にふうっと息を吹きかけ、ゆっくりとキーボードの上に手を置いた。
頭の中には、これからこのページを訪れるであろう、見知らぬ誰かの顔が鮮明に浮かんでいる。

仕事に疲れて、満員の帰りの電車に揺られている人。
家事が一段落して、キッチンでひと息ついている人。
不安で眠れない夜に、暗い部屋でスマートフォンの光を見つめている人。
その一人ひとりの隣に静かに座り、温かいお茶をそっと差し出すような気持ちで、言葉を選び始めた。

まずは、幸せ度が高いと判定されたAランクの人に向けて書く。

「あなたの幸せ度はとても高い状態です。
日々の小さな喜びに目を向けることができる、素敵な才能を持っています。
ただ、周囲への配慮が行き届く分、少しだけ自分のことを後回しにしがちな面もあるかもしれません。
時には、がんばっている自分自身を、いちばん甘やかしてあげる時間を作ってみてください。
心からのリラックスが、さらに豊かな毎日を連れてきてくれるはずです」

幸せな状態にある人は、周りにもよく気を配れる優しい人が多い。
だからこそ、もっと自分自身を大切にしてほしいという切実な願いを込めた。

次は、いちばん多くなるであろう、中間のBランクの人に向けて書く。

「あなたの幸せ度は、とてもバランスの取れた状態です。
良いこともそうでないことも、しっかりと受け止めながら、着実に前へ進もうとする強さを持っています。
今はもしかすると、何かを乗り越えようと奮闘している時期かもしれませんね。
焦らなくても大丈夫です。
あなたがこれまでに積み重ねてきた努力は、間違いなくあなた自身の糧となっています。
深呼吸をして、自分のペースを大切に歩んでいきましょう」

普通や平均的という味気ない言葉を使わず、バランスが取れている強さとして全面的に肯定した。
日々を懸命に生きていること自体が、何よりも素晴らしいことなのだから。

最後に、いちばん言葉を選ぶ必要がある、幸せ度が低いCランクの人に向けて書く。

「今のあなたは、少しお疲れのサインが出ているかもしれません。
幸せのハードルを高く設定して、無意識のうちに自分を追い込んではいませんか。
今は無理をして前を向こうとしなくて大丈夫です。
まずは、温かい飲み物を飲んだり、好きな音楽を聴いたりして、ゆっくりと心と体を休めてあげてください。
立ち止まることは、決して後退ではありません。
エネルギーが満ちるのを待つ時間も、人生には必要不可欠なプロセスです」

原因を厳しく追及するのではなく、ただ休んでいいと伝えることに専念した。
前に進めない自分を絶対に責めないでほしいという強い思いを、ストレートな言葉で表現した。

すべての結果を書き終え、私は改めて全体をゆっくりと読み返した。
先ほど完成した、あのSランクの結果とも、文章の温度感がしっかりと揃っている。
誰かを冷たくジャッジするのではなく、ただ隣に寄り添って背中をさするような、そんなページがようやく完成した。
私は静かに保存ボタンを押し、深く息を吐いてからパソコンを閉じた。

いつの間にか、公園を吹き抜けていた冷たい風は少しだけ和らいでいた。
顔を上げると、分厚い灰色の雲の切れ間から、微かに夕焼けの赤い光が漏れ出している。
悩み、立ち止まり、自分の未熟さに直面した苦しい時間だったけれど、決して無駄な遠回りではなかった。

課題がもう一つ増えてしまったが、それは楽しんで向き合えるものだった。

「今度彼に会ったとき、どのような言葉で感謝を伝えるか」

という、今の私には容易く解ける問題だったから。

冷え切っていた指先も、今は不思議と温かい。
私はパソコンを入れた重いバッグを肩にかけ、軽い足取りで歩き始めた。

雲が晴れ始めた空には、1番星が静かに瞬き始めていた。

メンバーシップでは、こんな感じでストーリーを紐解きながら、学習を進めています。

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